口腔筋機能療法(MFT)

歯の傾きや歯列が決定される仕組み

理想的な舌の位置

歯の傾きや歯列が決定される仕組み

※ Muscle Wins! の矯正歯科臨床 近藤悦子著より 抜粋

歯はお口の中で舌と口唇、頬の力のバランスが調和している位置に並びます。 
ですから、舌癖のために上の前歯の内側へ力が強くかかれば前歯は外に出る傾向が強くなり、出っ歯になりやすくなります。逆に咬唇癖があったりやオトガイ筋(顎の先の梅干しの様な皺を作る筋肉)の力が強い場合は下顎前歯はそれら外からの力によって内側に傾く傾向をとり過蓋咬合になりやすくなります。また、お口をいつも開けていて上下の歯の間に舌がのっていると、開咬といって奥歯でしっかり咬んでいるのに前歯が閉じない噛み合わせになります。

また下の前歯にいつも舌が触って下の前歯を押し出している様な場合は下顎の歯が上の歯より前に出てしまう(下顎前突)事もあります。
他にも様々なお口周りの筋肉の不調和が正常な歯列の育成が妨げられる事がわかっています。MFTはこのような異常な筋肉の働きを正常にする為に行うお口の体操です。

舌と口唇と頬と歯並びの関係

※ 顔・からだバランスケア お口の健康を保つために 筒井照子著 より抜粋

1907年に近代矯正学の父、Angleは口腔習癖に多くの種類があり不正咬合を引き起こす大きな要因となり、それらの習癖を克服しないと矯正治療は成功しないと発表しました。その後1918年に矯正科医Rogersが筋肉の不調和を改善する為の筋肉の訓練法を紹介し、咬合の安定の為には歯列を取り囲む口腔周囲筋群が唇舌的に頬舌的に調和した状態である事が必要であると提唱しました。これがMFTの原点です。

 その後、1960年代になって矯正歯科医のStraubが言語療法士とともに発音訓練を応用してMFTのプログラムをつくりました。Straubに学んだ言語療法士のBarretはより舌や口腔周囲筋の訓練を主体としたトレーニング法を開発しこれが現代のMFTの基礎となっています。
 この様にMFTは歴史的には矯正歯科臨床のニーズから生まれ発展した筋肉の調和を図る為の療法です。

 日本では約30年前から矯正治療を円滑に進めるため、予後の安定のために、矯正歯科・小児歯科臨床の場で取り組まれています。MFT によって咬合を安定させること、つまり口腔環境を良好な状態に保つ事は包括的な歯科医療を行う上でも重要になるため一般歯科臨床の場でも応用されつつあります。

 口腔周囲筋は食べる、飲む、話す、笑う、表情を作るといった日常生活に密着した機能を担っています。口腔周囲筋の不調和が原因で何らかの原因で口腔周囲筋に不調和があると、上手に食べられなかったり、舌足らずな話し方になったり、不満のありそうな顔をしていると誤解を受けたり等、生活の質に支障を来す事があります。それらへの解決策としてもMFTは応用されます。幼児期からMFTを応用し正しく食べ飲み話す習慣を身につけ正しい機能を獲得しておくことで”悪習癖だけ”が原因の不正咬合の予防にはなりますし、少なくともより良い口腔環境の維持、増進に役立つ事は確かです。

MFTを積極的に取り入れています

当医院では歴史的に実績のある矯正治療へのMFTの応用を軸にMFTを積極的に取り入れています。矯正治療で歯並びを治してもお口周りの筋肉の力によって後戻りしたり、新たに悪い歯並びになってしまうのを防ぐためには子どものうちに筋肉の機能も正常化しておくのが理想的です。歯列矯正において形態を整えMFTによって口腔周囲筋の機能を正常化し、機能と形態の調和を図る事により、健全な歯列の獲得と長期安定、維持が可能になります。


また、小児に関しては口腔育成としてMFTを良いお口作りのための体操として定期検診や日々の診療で歯磨き指導と同じようにご紹介しています。不正咬合の予防としてのMFTに関しては賛否両論ありますが予防矯正として装置を使える年齢ではないが、簡単なお口の体操ならできるという場合は取り組む価値はあるでしょう。

 

舌の癖によってかみ合わせが変わってしまう事もあります

 

※ 口腔筋機能療法(MFT)の臨床 より抜粋

一方、当医院ではスピーチセラピーの必要な子ども達へのMFTも行っています。舌の形態や動きの問題で言葉がはっきりしないお子さんへはMFTは有効です。ただし専門家の診断が必要になりますので小児科医、養護教員、など専門家との連携を前提に慎重に加療させて頂いております。
5歳をすぎても言葉がはっきりしない、舌足らずな話し方になっている、という場合は舌の問題であれば歯科での対応が可能です。お子様の言葉が気になる場合はお気軽にご相談下さい。

MFTで改善が期待できる症状

口腔周囲筋の不調和のある場合が適応症となります。歯並びや上下の顎の位置関係を改善するための治療法ではないので形態の改善が必要な場合は矯正治療と並行して行います。

* 安静時(ぼんやりしている時)舌が上顎についていない
* お口をいつもぽかんと開けている
* 舌が上下の歯と歯の間にのっている
* 呑み込む時に舌が上下の歯の隙間に出る
* 呑み込む時に体全体を使わないと上手く呑み込めない
* お口を閉じて食べられない
* 唇を咬む癖
* サ行、タ行、カ行、ラ行など特定の音がはっきりしない

MFTの適応年齢

MFTはいわゆる“筋肉が異常な動きをする癖”の改善を目的としているので若年者ほど反応は良いです。しかしMFTのトレーニング内容が若干難しいのでトレーニングの意味が理解できる頃、小学校に入ってから永久歯列が生え揃うまでを最適応年齢としています。
成人の場合は一度定着した筋肉の無意識下での動きの改善は困難ですが日々のトレーニングをコツコツ頑張って頂く事で効果は出ます。

MFTのトレーニング

50種類以上もあるトレーニングの中から患者さんのお口の状態によってメニューを作り診療室だけでなくご自宅でも行って頂きます。

MFT症例

症例①:舌癖が反対咬合を助長している症例

舌癖によって前歯の反対咬合になっています。

治療前

舌突出癖があり、咬合誘導と併行してMFTを行い治療を行いました。

治療後 前歯の噛み合わせが反対のまま成人した患者さん

 

症例②:上顎前歯ノ捻れと上下顎の噛み合わせのズレのある症例

上顎前歯の捻れと上下の歯列の中心が大きくズレています

治療前
言葉がはっきりしないことを主訴に来院、歯並びも心配です

治療後 歯並びの悪さに気がつきこれから矯正する患者さん
MFTを実施 構音障害(舌足らずな話し方)の改善とともに歯並びも整ってきています。